企業に求められる過労死等防止のための対策

 2014年6月に過労死等防止対策推進法が成立してから10年が経過しました。これまで同法に基づき策定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下、「大綱」という)において、様々な取り組みが定められ、推進されてきましたが、この大綱が2024年8月に変更されました。そこで以下では、今回の変更箇所の中から主要な事項についてとり上げます。

[1]時間外労働の上限規制の遵守徹底

 今年4月より、すべての事業所で時間外労働の上限規制が適用されています。これを受けて、労働基準監督署において、その遵守徹底を図ることとしています。
 また、商慣行・勤務環境等を踏まえた取組みとして、以下のように業種等の分野ごとの取組事項が示されました。

【例:トラック運送業】

  • 緊急増員したトラックGメンによる是正指導の大幅強化や「標準的運賃」の8%引き上げ改定により、取引環境の適正化に向けた取組を推進する。
  • 2024年4月に、構造的な対策として、物流効率化や賃上げ原資確保のための適正な運賃導入を進める法律が成立したことを受け、同法の施行に向けて政省令等の整備を進める。

【例:建設業】

  • 2024年通常国会に、処遇改善に向けた賃金原資の確保と下請事業者までの行き渡り、資材価格転嫁の円滑化による労務費へのしわ寄せ防止、更には、働き方改革や現場の生産性向上を図ることを内容とする法律が成立したことを受け、それに基づく取組を推進する。

[2]過労死等を発生させた企業に対する再発防止対策

 過労死等を発生させた事業場に対しては、監督指導または個別指導を実施し、企業本社における全社的な再発防止対策の策定を求める指導を実施するとしています。
 また、一定期間内に複数の過労死等を発生させた企業に対しては、企業の本社を管轄する都道府県労働局長から「過労死等の防止に向けた改善計画」の策定が求められ、同計画に基づく取組を企業全体に定着させるための助言・指導(過労死等防止計画指導)を実施するとしています。

[3]多様な働き方への対応

 テレワーク、副業・兼業、フリーランスといった多様な働き方について、それぞれの労働環境の状況に応じた取組みが推進されます。特にフリーランスについては今年11月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が施行されることから、この周知と施行後の履行確保に向けた取組みが行われます。

[4]過労死等防止対策の数値目標

 労働時間、勤務間インターバル制度、年次有給休暇、メンタルヘルス対策について、数値目標が設定されています。
 この中で労働時間については、2028年までに週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下(2023年8.4%)とすることが掲げられています。年次有給休暇については、2028年までに取得率を70%以上にすることが掲げられています。

 慢性的な人手不足に陥っている企業が増加しており、そうした企業においては残業や休日出勤によってサービスレベルを維持しているというケースも少なくありません。過重労働は従業員の命や健康を脅かす危険性がありますが、それ以前に従業員の離職の原因にもなります。安定的な人材確保のためにも、業務改善を通じた過重労働の防止を進めましょう。

■参考リンク
厚生労働省「「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更が本日、閣議決定されました

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。