2023年度の労基署監督指導における賃金不払事案件数は21,349件
先月、厚生労働省は「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)」を公表しました。これは2023年1月から2023年12月までに、全国の労働基準監督署が、賃金不払が疑われる事業場に対して実施した監督指導の結果を取りまとめたものです。以下ではその結果と実際の監督指導の事例をとり上げます。
[1]監督指導状況
2023年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおりです。
件数 21,349件(前年比 818件増)
対象労働者数 181,903人(同 2,260人増)
金額 101億9,353万円(同 19億2,963万円減)
これらの賃金不払事案のうち、令和5年中に会社が賃金を支払い、解決した最大の事案の支払金額は2.3億円でした。一方、この件数を業種別にみてみると、商業の4,407件が一番多く全体の21%を占め、製造業4,174件、保健衛生業3,261件、接客娯楽業2,685件、建設業2,047件と続いています。
[2]監督指導の対象となった事案
本結果の中では「監督指導による是正事例」が紹介されています。自社の労働時間管理の在り方を見直す際の参考となりますので、ここでは労働時間の適正な把握に関する指導事例をとり上げます。
[概要]
過重労働による労災請求がなされたことを受け、労働基準監督署が立入調査を実施。
- 労働時間は、勤怠システムにより管理を行っているが、当該システムに搭載された端数処理機能を用いて、日ごとの始業・終業時刻のうち15分未満は切り捨て、休憩時間のうち15分未満は15分に切り上げる処理が行われていた。
- 着用が義務付けられている制服への着替えの時間を、労働時間としていなかった。
[労働基準監督署の指導]
- 労働時間を適正に把握するための具体的方策を検討・実施すること。
- 過去に遡って、労働時間の状況について労働者に事実関係の聞き取りを行うなど、実態調査を行い、実際の支払額との差額の割増賃金の支払いが必要になる場合は、追加で支払うこと。
その後の対応として、会社は、正しい労働時間数を把握し、再計算の上、差額の割増賃金を支払ったようです。また、勤怠システムの設定を見直し、始業・終業時刻の切り捨て、休憩時間の切り上げ処理をやめ、1分単位で労働時間を管理することとし、制服への着替えの時間についても労働時間とすることとしました。
労働時間管理は労務管理の基本となります。過重労働を防止すると共に、賃金不払残業を発生させないよう、労働時間の適正把握、管理を徹底していきましょう。
■参考リンク
厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)を公表します」
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。